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大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)297号 判決

控訴人

中田寛

右訴訟代理人

栗林五一郎

被控訴人

伊藤吉男

外七名

右八名訴訟代理人

崎間昌一郎

外四名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所の判断は、次に附加訂正するほか原判決理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

1原判決九枚目裏六行目の「3(1)」の「(1)」を削除し、同一〇行目の「承継したこと、」の次に、「西村宇右衛門は昭和三二年一一月三日死亡し、その孫である被控訴人西村宇多茂が別紙目録録(六)の土地に関する宇右衛門の権利義務を相続により単独承継したこと」を、一〇枚目表七行目の「原告伊藤」の次に「(原当審)」を、同一二行目の「被告本人」の前に「原当審」を各挿入し、一〇枚目裏八行目の「一筆」を「二筆」と、一一枚目裏三行目の「原告」を「原告ら」と、同六行目の「卯右衛門」を「宇右衛門」と各あらため、同七行目の「との間において」の次に「(但し、西村については中田寛次の代理人たる訴外増田喜一との間において)」を、同一〇行目の「訴外可畑」の次に「(西村については右訴外増田)」を、一二枚目裏一行目の「証人中田ます江、」の次に「同増田喜一、原当審」を各挿入し、同三行目の次に、次の文言を附加する。

控訴人は、仮に亡中田寛次と被控訴人ら(西村については先代)との間に土地の売買が行われた事実があつたしても、右土地と本件各土地とは別箇の土地であるから、被控訴人らの主張は理由がないと主張し、その根拠として、本件各土地の面積が買受代金の領収証(甲第二号証の一ないし八)に記載された土地(それが売買の目的となつた土地である。)の面積と異なり、且つ分筆前の登記簿上の面積と符合しない事実を挙げるが(当審昭和四九年五月一九日付、原審同四八年四月二三日付各準備書面)、〈証拠〉によれば、被控訴人らが主張する本件各土地の面積は昭和四〇年頃実施した精密な測量に基づくものであることが認められるから、右面積が前記各領収証に記載された面積(〈証拠〉によれば、右面積は巻尺を用いてなされた簡単な測量に基づくものであることが認められる。)及び分筆前の登記簿上の面積と一致しないからといつて、本件各土地が本件売買の目的物件と異なることの根拠とすることはできない。控訴人の主張は採用できない。

2原判決理由三、四を次の三、四のとおり改める。

三、控訴人援用の最高裁判所昭和四九年九月四日大法廷判決(他人の権利の売主をその権利者が相続し売主としての履行義務を承継した場合でも、権利者は、信義則に反すると認められるような特別の事情のないかぎり、右履行義務を拒否することができる。)の事案との相異点・類似点から考えて、本件のように、他人の権利の売主を相続した者がその相続後に他人からその権利を取得した場合、右相続人は、信義則に反しないと認められるような特別の事情のないかぎり、売主としての履行義務を拒否することができない、と解するのが相当である。

本件についてみるに、控訴人(Y)の先代は、国により所有農地を買収されたが、将来国から被買収者に売払の可能性の強いことを知り、小作人である被控訴人ら(Xら)と、被買収農地を目的とする他人の権利の売買契約を締結し、Xらから売買代金を受領し、Yの先代の死亡により、Yが相続した後、Yが国から買収時の価額で被買収農地の売払を受けたのであり、本件において、上記の特別の事情は認められない。したがつて、YはXらに対し売主としての履行義務を拒否することができない。

四、消滅時効の抗弁に対する判断

(1) 農地の売買契約に基づき買主が売主に対し農地法第三条所定の許可の申請を求める権利は、民法第一六七条第一項所定の債権に該当し、行使し得る時から一〇年の経過によつて消滅する。

(2) 本件のように、他人所有の農地の売買の場合、買主が売主に対し農地法第三条所定の許可の申請を求める権利の消滅時効は、売主が他人から農地所有権を取得した時(この時が、民法第一六六条一項所定の「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」に該当する。)より進行する。

(3)  本件において、控訴人が国から本件土地の売払を受けたのは、昭和四四年二月二八日であるから、被控訴人らが控訴人に対し農地法第三条所定の許可の申請を求める権利は、時効により消滅していない。

(4)  農地の売買契約に基づく農地所有権の移転の効力は、農地法第三条所定の許可を法定条件として、発生するのであるから、農地の買主が売主に対し農地法第三条所定の許可の申請を求める権利(甲権利)が、時効により消滅することなく、存続しているとき、農地の買主が売主に対し所有権移転登記手続を求める権利(乙権利)は、消滅することなく、存続している。(甲権利が時効により消滅するとき、乙権利は消滅する。)

(5)  したがつて、控訴人の消滅時効の抗弁は採用できない。

3よつて、農地法第三条所定の許可の申請手続、右許可を条件とする所有権移転登記手続を求める被控訴人らの請求を認容した原判決は正当で、本件各控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小西勝 入江教夫 和田功)

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